【バランワンダーワールド】コンセプトが自らの首を絞める悪夢

伝わらない構成

各章のアクションステージに配置されているオブジェクトは、心象世界の主人が抱えている希望や悩みが反映されている。ムービーの中で彼らがどのように悩みを抱えていったかが明かされるが、それが見れるのは2つのアクションステージをクリアした後である。ムービーを各章冒頭にして、プレイヤーが物語を理解した上でアクションステージを攻略する、という形に何故しなかったのだろうか。もう一度同じステージに来ることになるから、理解した上で2周目以降を楽しんでほしいという工夫なのだろうか。詰まるところ、先にも触れた「わかりにくさ」の演出に過ぎない。

ボスを倒した直後にミュージカルパート、その後に悩みを克服したストーリーが描かれたムービーとなっている。つまり、困難→克服→ミュージカルではなく、困難→ミュージカル→克服という構成になっており、プレイヤーは晴れやかな気持ちでミュージカルを見ることができない。制作者の意図を汲み取ると、ミュージカルはキャラクターの内面がポジティブになることそのものであり、その前向きな気持ちで苦難に立ち向かう、ということなのだろう。しかし、プレイヤーの視点からすると「なぜ踊っているかわからない」と感じるのも当然だ。「嬉しいから踊るのではない、踊ったら嬉しくなるのだ」と押し付けられても、伝わらないものは伝わらない。

ミュージカルであれば、歌と踊りで表現するものだろう。辛いこと、乗り越えるきっかけ、気持ちが晴れた喜びなどを歌詞にして、踊りも歌に合わせたものにする。ただキャラクターが踊れば良いという考えで作ってしまったのだろうか。

困難を克服しきれないストーリー

心象世界の人々は、それぞれが悩みを抱えている。ムービーで明かされる苦難の物語、それを乗り越える契機、そして困難を見事打ち破り、明るい未来が描かれる。本来そうなるはずなのだが…。

まず第一に、ストーリーの質が低い。それは悩みと言えるのか?と思うようなものであったり、ムービーで見せた辛いシーンも無かったことにされるような解決方法であったりと、肩透かしを食らった気分になる。これは、あくまでキャラクターの内面の変化によって困難を乗り越えるのであって、克服の要因も内に求めているからではないかと考えられる。逆に言えば、外的要因は一切変化していなくても気持ちが前向きになるだけで乗り越えられる程度の苦難しか組み込めない。それ故、「ただの思い込みでは?」という矮小な悩みしかストーリーにできないのである。

次に、悩みを乗り越える明確な変化を示せていないことも問題である。心象世界の主が困難を乗り越えるための契機を、バランや主人公が与えるという印象付けが必要だったのではないかと感じた。第1章の農園を営むホセ・ガリアルドは、嵐に見舞われ大切なトウモロコシ畑を荒らされてしまう。ミュージカルパートの後、決意を持った表情でシャベルを持つと不意に風が吹き、その先に嵐に負けなかったトウモロコシ一株を見つける。その間、ミュージカル以外にプレイヤーや主人公が関わることがないのだ。それ故、放っておいても解決しただろうと思うような話が多い。バランが魔法を使って一株生き返らせるとか、風を吹かせて気付かせるとかしていれば、だいぶ印象は違っただろう。

困難と言える困難でもなければ、克服と言える克服でもない。そんなストーリーをただ傍観してるだけでは、感動を得られるとは到底思えない。このゲームは12章の物語で構成されており、時間をテーマにしたためにこの数になっている。その質を見るに、数を合わせるためにさぞ振り絞ったのだろうと思っていたのだが、実際のところインタビュー記事によると、30から40もある中から選別したらしい…。小説版もあるそうなので、気になった人は読んでみてはいかがだろうか。(筆者は読んでいない)

とにかく意味不明なティム

「ティム」は、ポジティブな感情によって形成された小動物である。キャラクターの後を追従し、戦闘に参加したり、アイテムを拾ってきたりする。ティムズエリアで育成することができ、アクションステージで獲得したドロップをティムに与えると成長する。『ソニックアドベンチャー』のチャオに近いものを作りたかったのだと思われる。

ティムにドロップを与えるとティムズエリア中央の歯車を回し、ティムタワーが出現する。また、ティムが成長して大きくなると、小さなティムを投げつけて卵を産むことができる。何を言っているかわからないと思うが、実際にプレイしても全くわからない。育成する目的や世界観の中の位置付けがわからないまま、指示された通りにやっているだけである。ドロップの色によってゲーム内の効果に反映されるらしいが、普通にプレイしている限りは一切わからない。

チャオは育成ミニゲームとしての楽しみがあり、ゲーム本編と並ぶほどに印象に残っているが。しかし、ティムは世界観を投げたままの状態で、ゲームに落とし込まれていない。過去作を知っているだけに目指すものは漠然と理解できるが、このゲームに限って言えば、意味不明の象徴である。

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