バランワンダーワールドとは
『バランワンダーワールド』は、2021年3月26日にスクウェア・エニックスから発売されたワンダーアクションゲーム。対応プラットフォームは、PlayStation5、PlayStation4、Nintendo Switch、Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam)。ソニックシリーズを手がけた中裕司氏と大島直人氏が再びタッグを組み、ソニックやNiGHTS等の過去作ファンを中心に世界中で注目を集めた。本作では中裕司氏はディレクター、大島直人氏はキャラクターデザインを担当している。
今回のレビューにあたり、希望小売価格7,678円(税込)のところ、PS4版新品を980円で購入してプレイした。
世界観と作品のコンセプト
舞台は不思議な心象世界「ワンダーワールド」。悩みや不安を抱え、感情のバランスがネガティブに傾いてしまった主人公の少年レオと少女エマは、謎のマエストロ バランによってワンダーワールドへ導かれ、現実世界へと帰るために心のかけらを探す。
ネガティブな感情が具現化した存在である「ネガティ」に支配されてしまった12人のキャラクターの心象世界を巡る。各章に一人の心象世界が描かれ、アクションは2つのアクト(ステージ)とボス戦で構成されている。ミュージカルをモチーフとした作品で、ボス戦後に主人公と2人で踊るミュージカルパートがある他、アクションにおいても「衣装」を着ることで能力を手に入れるようになっている。
オープニングのムービーは非常にクオリティが高い。頭身の低いキャラクターデザインでありながら髪、肌、服などの質感がリアルに描かれている。キャラクターの動きも表情豊かである。流石スクウェア・エニックスといったところだ。
コンセプトが抱える問題点
全体を通して言えることは、ゲームを構成するあらゆるコンセプトが欠点を生み出してしまっている、ということである。
この作品が目指したのは、ノンヴァーバル(非言語的)な世界で困難に打ち勝つ物語を表現し、幼い子供の心に刻み込まれるゲームといったところだろう。最新版のNiGHTSといってもよい。だが、言葉を用いなくても伝わるというコンセプトの基、言葉では伝わらない魅力に過度に期待してしまい、結果プレイヤーに伝わらないという現象が起きてしまったように見える。
このゲームをプレイして気になったことは、作品や表現の純粋な魅力を洗練させるより、単にわかりにくさを作ることに頼っているということである。キャラクターは架空の言語「バラニーズ」で喋る。主にアルファベットの順番を入れ替えた読みで、「Excellent」が「テネレスケ」、「Great」が「ティエルグ」となっている。オープニングムービーでバランが話す言葉だけでなく、ジャンプなどのアクションの掛け声もバラニーズである。これを聞いたプレイヤーは「何を喋っているんだ?」疑問を抱く。オープニングムービーには字幕があるし、それ以外も言わんとすることはわからない訳ではない。各言語に応じてボイスを収録しなくて良いというメリットがあり、多言語対応の一つの方法とも考えられるが、それならば全く喋らないという形でもよかったのではないかとも思う。
こういった「わかりにくさ」を生んでいる原因はこのゲームのコンセプトそのものである。未就学児でもプレイできるように、細かいゲームのルール、世界観や物語の説明を省きゲームを楽しむことに集中させる。言葉がなくても伝わるように、登場人物の心情の変化をダンスで表現する。そうして出来上がったのは単に伝わらない作品であり、ゲームを通じた感想が「意味不明」となってしまう。
これ以降に述べる、アクションやストーリー等ゲーム全体に及ぶ問題点も同様に、その大半がゲームのコンセプトから生じた歪みである。ゲームを面白くする仕組みとして用意されたものが、尽く裏目に出ている。