【バランワンダーワールド】コンセプトが自らの首を絞める悪夢

バランスタチューが集まらない

ステージ内には「バランスタチュー」があり、新しいステージを解放するためには一定数のバランスタチューを獲得する必要がある。この要求数が多く、ステージを一通りクリアしてもバランスタチューが足りなかった。そうなると、一度クリアしたステージに戻ってバランスタチューを探さなければならない。明らかに設定ミスである。このシステムのため、初めてプレイするステージであっても、あらゆる場所に隠されたバランスタチューを探しながら進むことを要求される。これは通常のアクションゲームであれば、集めると1機増のアイテムを入念に探しつつクリアしなければ先に進めないようなものであり、必然的にステージを進んでいく爽快感を削いでいる。配置も見づらい、わかりづらいものが多く、探す楽しみより面倒臭さが先立ってしまった。バランスタチューが足りず進めないという状況で投げ出してしまうプレイヤーも多いのではないだろうか。クリアしても先に進めないというのは、もはや欠陥でしかない。

低年齢層を意識し過ぎた

各ステージには「バランチャレンジ」というQTEが用意されている。通常の操作キャラクターとは別のバラン自身が謎の敵と戦うシーンで、タイミング良くボタンを押すか連打するだけの、お世辞にも楽しいとは言えないミニゲームである。

バランチャレンジに成功すればバランスタチューを手に入れることができる。ただし、ここでいう成功とは、Excellent、Great、Good、Miss の4段階あるうち、全てExcellentを獲得することである。一回でもGreat以下を取ってしまった場合、ステージの頭からやり直さなければいけない。到達するまでの過程と待ち時間が長く、単調かつシビア。バランチャレンジが多くなる終盤はとにかく面倒だ。子供でも遊べる簡単なゲームであるが故に、妥当な難易度を実現しようとすると異常な要求を設けざるを得ない。

このゲームは大人から子供まで遊べるゲームを目指してはいるが、「子供が遊べるゲーム」にするためにハードルを下げようとした結果、「子供でも遊べないゲーム」になってしまった。誰もが楽しめる名作アクションを期待して購入したプレイヤーの多くは、レベルの低い幼児向けゲームに落胆したのではないだろうか。開発者自身が面白いと思うゲームを作るのであればまだ希望はあるが、ユーザーへの配慮を履き違えてしまった作品が見向きもされないのは致し方ない。

コンセプトの不都合とその場凌ぎの改変

ステージの傍にはキャストが配置されていて、踊りでゲームを盛り上げてくれる。彼らは、心象世界の人にわずかに残ったポジティブな気持ちが具現化したものだ。初めてプレイした人が敵だと誤認してしまうことがあるため、近づくと透明になる仕様にしたそうだ。「何だろう、近くでもっと見てみたい」と思って寄ってみると、彼らは消えてしまう。子供が遊園地のキャスト見つけて楽しげに近寄ると、キャストが消えてしまう、そんな状況を想像すると何だか切なくなる。

キャストの並べ方は無造作で、敵と誤解してしまうことがあるのも仕方ないと感じた。ステージの隅々まで探索しなければならないゲーム性と相まって、ステージ内のオブジェクトが多く煩い。敵ではないと伝える並べ方を模索するよりも、近づくと消えるという安直な方法を採ってしまった。心象世界の住人も同様に消えるが、巨大な人が座っていたりするのは、近くで見られないから拡大して遠くから見せる、ということなのではなかろうか。

世界観を構成するコンセプトとゲーム性が衝突し、コンセプトを立てるためにその場凌ぎの改変で済ませている。本来ならばゲーム性を優先しなければならないところでも、世界観を重視するあまりに意味不明な点が先立ち、結果的にゲームの面白みを壊している。製作陣の歯痒い思いを追体験する悪夢のようなゲームだ。

意欲的な挑戦が空回り

インタビュー記事によると、このゲームにはメタAIが採用されており、プレイに応じて敵やアイテムの配置が変化するという。アクションが得意なプレイヤーには難度を上げ、苦手なプレイヤーには難易度を下げる。プレイヤーが選ぶルートと腕前に応じてアイテムの配置を調整し、下手なプレイヤーにはアイテムが手に入りやすくなっているそうだ。このお節介メタAIは、ともするとプレイヤーに合わせたゲーム体験を用意してくれる魅力的なものに聞こえるかもしれない。

このメタAIの厄介な点は、敵を倒せば倒すほど増えるので無視した方がいいというゲームバランスになってしまうことだ。敵を倒せば充分な腕前があると判定され敵が増え、無視すれば減る。ドロップするアイテムは何の役にも立たず、雑魚敵を倒すメリットはほぼ皆無、むしろデメリットを増やす始末である。敵を倒すと何か得られるという常識すらもこのゲームには通用しない。

それに加えて問題なのが、プレイヤーは難易度調整に気付かないということである。通常のゲームにあるような難易度選択をしなくても、ゲームが勝手に難易度を変えてしまう。仮にゲームをクリアし、敵が多くて難しすぎる、あるいは少なくて簡単すぎたと感じたとしても、その原因がプレイヤー自身にあることに気付かないのである。私は前情報を入れた上でプレイしたため敵の増加の原因が分かっていたが、AIの存在を知らない通常のプレイヤーは違和感を抱きつつもステージを進んだことによる難易度変化だと思ってプレイしていくだろう。

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