【ファイナルファンタジーVIII】高い期待に応えられなかった惜しい名作【ネタバレあり】

世界観

物語はガーデンから始まり、魔女を倒す旅に出る。学園モノとも言える世界観は、ファンタジーとしては異色だろう。主要キャラクターは17歳(または18歳)という設定で、過去作と比較しても若い。魔女は力を持った存在ではあるが、必ずしも敵というわけではない。過去作でいうところのクリスタルのような、この物語における中心的存在である。

前作に引き続き、旧来のファンタジーの概念に囚われない世界観を展開している。近未来的な世界観が印象的で、ガーデンの造形やエスタの景色は特徴的である。

玄人向けの仕様

今作のシステムは、前作までをプレイした人にも満足してもらえるように用意された要素が多い。UFOやオーベール湖の秘密、グラシャラボラスなど、サブクエや小ネタに力が入っている。ゲーム内だけでヒントを集めて攻略するのは難しいため、攻略本等を読んで情報を集めて攻略をすることを前提に作られていると思われる。また、取り返しのつかない要素も多々あり、G.F.等を入手できなかったという人もいるだろう。このあたりは時代特有で、最近のゲームでは見られない要素ではないだろうか。

ストーリー構成の特徴

今作のテーマの一つが「時間」である。スコール編とラグナ編という2つの時間軸がスコールの過去を通して繋がり、ラグナ、エルオーネという人物を中心に展開している。そして、それらの時間軸が交差し、彼らが一堂に会した時、ラストへと向かっていく。また、魔女についても、過去の魔女、現在の魔女、未来の魔女が存在し、時間圧縮という極限状態でラスボスへ挑むという形で、時間を主軸にしている。

これを踏まえてストーリーを振り返ってみると、今作は過去に向かうという方向性が強かったように思う。隠された情報が明かされることで、既存のキャラクターに対する印象が大きく変わることを主軸にしている。通常は、謎が提示され、それが解明されていくというのを基本にして、謎が解明されると新たな謎が現れるといった展開が一般的である。言い換えれば、見えない未来が可視化されて世界が広がっていくということである。今作はむしろ、見えない過去が想起されることで世界が変容する。ティンバーで魔女イデアに会った時は謎の存在であったのが、デリングシティでは悪の支配者になり、ガルバディアガーデンとの衝突時は敵であり育ての親、そしてその後は味方というように、キャラクターの立場が劇的に変化する。この構成は特徴的と言えるだろう。

今作に詳しい人なら「リノアル説」というのを耳にしたことがあるだろう。リノアとラスボスのアルティミシアが同一人物であるという説が、ファンの間で語られている。リノアの白い羽とアルティミシアの黒い羽、エンディングのオーバーラップが主な根拠であり、他にも様々な点で考察がなされている。この説が真実であるかは断定されていないが、可能性の一つとして考察してみるのも、この作品の楽しみ方の一つと言える。ゲーム内で詳細まで語らないことで、余白を想像で埋める楽しみを残している。

ストーリーの違和感

リアルさを増したグラフィックにより、頭身が大きく大人びた印象を受けるのと裏腹に、キャラクターが全体的に幼さや未熟さを持っている。スコールは感情表現が苦手で、サイファーの処刑を聞いたシーンでは謎の癇癪を起こし、ラグナは年齢に見合わずおっちょこちょいで軽薄なところが見られる。その他の主要キャラクターも、どこか未熟さを抱えていたり、それが起点となってストーリーが進行していく。このゲームは時間がテーマになってくるのだが、現時点でさえ未熟なキャラクターの幼少期まで出てくる一方で、成長して幼さから脱するという側面はあまり描かれない。この妙な幼さが気になる人は、今作を好きになれないかもしれない。

キャラクターどうしのやり取りに独特のノリがあり、これは好みが大きく分かるポイントだろう。どことなく軽薄で言葉の重みがなく、シリアスなシーンを期待していると肩透かしを喰らうような違和感がある。シリアスなシーンは重く、戯けてみせるシーンは軽くというメリハリがあればよいのだが、今作は全体的に軽薄さが透けて見え、シリアスなシーンに入り込めない感覚がある。割と重要なシーンで観客が期待する表現とは違うキャラクターの立ち振る舞いが見られた。

スコールとリノアの恋物語として見ても、どこかズレているという印象だった。スコールが不器用でリノアの思いとはズレがあるという点では実際にそうであると言えるが、それだけではない。イデア戦後にリノアが気を失ってしまうが、この前後でスコールのリノアに対する態度が急変する。それまでスコールはリノアに想いを寄せている素振りを見せないのに、リノアの意識がなくなったのを境に、リノアのためなら後先考えずに行動する無鉄砲さが出てくる。主人公の感情の変化を追ってストーリーを見ていこうとすると、その激変についていけず、キャラクターに対して感情移入しにくいという、プレイヤーとキャラクターとの間のズレも生じる。

ただこの点に関しては、ある程度意図的にやっているのではないかと感じた。スコールとリノアの恋をはっきりとは描かずに、プレイヤーがどちらかに恋心を抱く、あるいは描かれていないシーンを想像することによって、プレイヤーが感情移入するということだ。ドラクエの主人公が言葉を発しないように、作品に隙間を作っておいてプレイヤーが勝手に埋めることで没入する仕組みにしているのかもしれない。今作のストーリーは描写を追って読み解こうとするのではなく、プレイヤーが勝手に解釈し、都合よく補完することで楽しむタイプの物語なのかもしれない。ストーリーの流れや理由づけよりも雰囲気で楽しむ、ライトな恋愛ものと言ったところだろうか。

このゲーム最大の惜しい点

すでに挙げた通り、このゲームにはいくつかの惜しい点があるが、その中で最も惜しい点について触れたい。端的にいうと、最大の見せ場を作れなかったということである。

宇宙に行きリノアの意識を取り戻そうとするが、リノアは魔女の力に支配されてルナサイドベースの外に出てしまう。宇宙を漂うリノアをスコールが助け、運良く宇宙艇ラグナロクに乗り地球に帰還するが、魔女の力を封印するためにスコールはリノアと引き離されることになる。

この間に、ムービーや主題歌が流れるシーンがあるのだが、それらが分散してしまいプレイヤーの心に焼き付くほどの強い感動を与えるほどにはなりきれなかったのだ。まず、リノアが宇宙空間を漂い、死をも覚悟してからの安堵のシーンだが、「ハグハグ」といったセリフで茶化されてしまっている。次に、そこからプロパゲーター戦を挟んで、コクピットで『Eyes On Me』がかかるシーンに入る。戦闘を挟んで気が散ってしまうのもあるが、やはり再会と生存を喜ぶシーンをムービーで、かつ主題歌を使って演出すべきだったと思う。

リノアがアデルに取り込まれてから開放するシーンではムービーだったが、そこはBGMがなかった。今作のCM等にも使われた記憶があるが、ストーリー上の一つのシーンとしては、強く印象に残るほどのものではなかった。このシーンは直前からの繋がりが若干不自然で、制作過程での変更があったのだろうと推察される。

以上のように、ストーリー、ムービー、音楽が最大限に発揮される象徴的なシーンを作り出せなかったことが、このゲームの評価に大きく影響したのではないだろうか。

リマスター版の良い点、悪い点

リマスターはグラフィックが向上し、特に戦闘と通常マップの人物が非常に綺麗になっており、キャラクターによっては印象が大きく変わっている。リマスター版の最大の利点と言えるのではないだろうか。

今回レビューするにあたって、PS5でリマスター版をプレイしたが、いくつか気になった点があった。まず、前回記事のFF7でもあったように、通常速度で処理落ちが発生し、3倍速では感じなかった。できれば通常速度と2倍速、3倍速の3段階にしてほしかった。

細かい点だが、SE音量調節があるのにBGM音量調節がないのも気になった。使用しているモニターの音量調節機能がなく、ゲーム内調節に調節に頼っていたため、全体を調節できないのは不便に感じた。また、セーブデータが少なく、メモリーカード4枚分、計60個しかなかった。ちなみに、FF7ではメモリーカード10枚分、計150個だった。

グラフィックの改良は大きいが、全体としては痒いところに手が届かないリマスターという印象だった。

まとめ

プレイステーション時代におけるグラフィックの進化により、大幅な進歩を遂げたファイナルファンタジーシリーズ第8作目であるが、ゲームシステムの複雑化が期待した通りには機能しなかったこと、シナリオのクセが強いことなどにより、プレイヤーの高い期待には応えられなかったと言えるが、歴史的なセールスを打ち立て、プレイステーションのゲームの可能性を見せつけた名作であることに変わりはない。

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CHARACTER DESIGH: TETSUYA NOMURA

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